昨夜インスタでハッシュタグしてみたけど、ぼくよりすこし若いひとには意味わからないですよね。

 

https://www.instagram.com/p/BnTi2JLhU5C/

強風のなかルーフテラスで一服してたら、かぶってたキャップがどこか飛んでいった。#母さん僕のあの帽子どうしたでしょうね?#ええ夏碓井から霧積へ行くみちで#渓谷へ落としたあの麦わら帽子ですよ#人間の証明

 

子供の頃、「人間の証明」という松田優作主演の映画があって、そのテレビCMで使われてた有名なフレーズです

https://youtu.be/j8uklD3_ywA

 

その全文はこう。なんと郷愁を誘う切ない詩なんだろう。ぼくも調べてはじめて知りました。

 

ぼくの帽子   西條 八十

母さん、僕のあの帽子どうしたでしょうね? 
 ええ、夏、碓氷から霧積へゆくみちで、 
 渓底へ落したあの麦わら帽子ですよ。

母さん、あれは好きな帽子でしたよ、
 僕はあの時、ずいぶんくやしかった、
 だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。

母さん、あのとき、向から若い薬売が来ましたっけね。
 紺の脚絆に手甲をした。
 そして拾おうとして、ずいぶん骨折ってくれましたっけね。
 けれど、とうとう駄目だった、
 なにしろ深い渓で、それに草が
 背たけぐらい伸びていたんですもの。

母さん、ほんとにあの帽子、どうなったでしょう?
 あのとき傍に咲いていた、車百合の花は
 もうとうに、枯れちやったでしょうね。そして
 秋には、灰色の霧があの丘をこめ、
 あの帽子の下で、毎晩きりぎりすが鳴いたかも知れませんよ。

母さん、そして、きっと今頃は、今夜あたりは、
 あの渓間に、静かに雪が降りつもっているでしょう、
 昔、つやつやひかった、あの以太利麦の帽子と、
 その裏に僕が書いた
 Y・Sという頭文字を
 埋めるように、静かに、寂しく。

(『西條八十全集』第六巻 国書刊行会 61頁~62頁)